2008.11.06 Thursday

世界で最も過酷な職業のひとつ

 先週、東京で臨月の妊婦さんが脳内出血を起こし、墨東病院はじめ8病院で搬送を拒否されて亡くなられた事件について、cafeglobe.comでは、ネット上で意見を聞いてみました。http://www.cafeglobe.com/vote/results.cfm?poll_id=2249

 11/3時点で245名のうち約30%の方が、「子どもを持つか持たないか考えてしまう」と答えています。何かあったときに万全な体制でケアしてもらえるのかはとても気になりますよね。

 一方で、最近は自分が望むお産、自然なお産をしたいと、助産院での出産や助産師さんの力を借りて自宅出産を選択する人も増えています。万が一の緊急時には提携病院に搬送されるということになっているはずですが、こんな事件を聞くと「やっぱり検診から総合病院が安心かも」と思う人も少なくないのではと心配にもなります。

 私自身も、出産時45歳という年齢からいろいろなリスクを考え、やはり総合病院での出産を選びました。こういう行動が、高齢出産も増えるなか、総合病院への患者集中という現象を生み出しているのかもしれません。

 この事件については、出産中に脳内出血を起こした大淀病院事件と比べる報道もいくつかありましたが、ことの本質は産科医そのものの不足です。私はむしろ、大野病院の地裁判決のほうを思い出しました。産科医の逮捕というショッキングなニュースは、その後臨床の現場を萎縮させ、ことに大野病院のある福島県ではその後、産科を廃止する病院が相次いだといいます。

 地方の産科縮小が、今度は都心の病院への集中流入を生み、そこでの過密労働から医師がどんどん辞めていくという止めようのない悪循環。病院の産婦人科を辞めた医師たちの理由として、さまざまなメディアで目にし耳にしたのが「このままだと死んでしまうと思った」というコメントだったのには胸をつかれました。

 寝る時間を削り、コンビニのおにぎりを頬張る暇もなく、誠心誠意患者と向き合う結果が、刑事事件や訴訟になり得ると思ったらそんな職業に誰が就こうと思うでしょうか。

「ねえ、君がね、大人になって、もし、もしかして医者になりたいと思ったら、どうか産婦人科を選んでね」

 無事私の子どもが生まれたあと、主治医の先生とともについてくれていた若い女性の医師が、生まれて数日の子どもにと笑顔だけど真剣な目で問いかけていたのを思い出します。

「どの赤ちゃんにも言ってるの。潜在意識に残ってくれるかもしれないと思って。言わずにはいられないくらい、産婦人科医が足りないのよね」。

 こんなに過酷でリスクの高い仕事を、志高くやりぬいていこうという医師を守らなければ。産婦人科にかかる当の私たち自身も、どんどん意見をあげていかねばです。


Profile

矢野貴久子


出版社、フリー編集者を経て'99年にネットメディア、カフェグローブ・ドット・コムを設立。多忙な30代を経て40代で不妊治療を開始し、'07年11月に45歳で男児出産。'08年2月に職場復帰したばかりの新米ワーキングマザー。その日常は自身のブログ「朝と夜のあいだに」にても執筆中。
http://www.cafeblo.com/asayoru/
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